仏教の世界では、如来、菩薩、明王など多様なほとけが信仰されました。そのうち、苦しみにあえぐ人々に進んで救いの手をさしのべる存在として
注目されたのが、観音菩薩と地蔵菩薩です。観音はさまざまな災いを除く菩薩として、地蔵は地獄に落ちる苦しみから人々を救う
菩薩として広く信仰され、その姿はさかんに仏像、仏画、そして版画にあらわされました。
ほとけの姿をあらわしたスタンプ式の木版画を印仏といいます。印仏は日本で最初に流行した木版画といえるもので、
墨線の美しさと味わいのある表情が特徴です。平安時代末期になると、印仏を仏像の像内におさめる信仰が生まれました。
これは、版画と彫刻が結びついた現象として注目されます。また、より大型で表現が緻密な木版画である摺仏も、
中国での流行に刺激を受けて制作がはじまり、印仏と同様にしばしば仏像の納入品とされました。
この展覧会では、観音と地獄の姿をあらわした版画に加えて、関連する彫刻や絵画を展示します。特に、仏像の像内におさめられていた
印仏や摺仏を、その本来の居場所である仏像とともにご覧いただきます。さらに、観音信仰の基本理念である『法華経』に
関連する美術や、地蔵と縁の深い地獄の世界を描いた絵画などを加えた、約120点の作品によって
、「救い」をテーマとする仏教美術の醍醐味を味わっていただくものです。さらに、近年ますます関心の高まる
「死と生」にまつわる問題にスポットを当て、作品を通じて検証します。